イントロダクション
浩太の自室
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真美子 「あーっはっはっはっは!授業中これ読んでたって?意外とやるじゃん、恋川。もっと気の弱いお坊ちゃんかと思ってたけど」
智恵理 「パンツ丸見えよ、真美子」
ベッドにひっくり返って足をばたばたする真美子を、智恵理がたしなめた。
真美子 「いーって、どうせあんたしか見てないんだから」
智恵理 「そういう問題じゃないでしょ、まったく……」
机に向かい、小テストの採点をしながら智恵理がため息。
真美子 「で?どうしたのよ」
智恵理 「どうって……その場で注意して……あとで指導室呼び出したんだけど……面と向かっては言いづらかったから……」
真美子 「なーにやってんの。ビシッと言ってやんなさいよ」
智恵理 「そのつもりだったんだけどね……」
ため息。
真美子 「まったく。あんたそういうとこしっかりしないと、いつまでも生徒にナメられるよ?」
智恵理 「それは……私もわかってるんだけど」
真美子が再びベッドに背を落とし、ページをめくった。
真美子 「女教師知恵、誘惑の課外授業か。……ふーん、けっこう過激じゃん?」
智恵理 「……よねぇ……」
にやっ、と真美子が笑う。
真美子 「読んだな?」
智恵理 「えっ?あ、ええと、ほら、だって、指導するにしても内容わかってないと……」
真美子 「ほー。テストはともかく、没収したエロ本持ち帰るなんて、長谷先生は仕事熱心ですこと」
智恵理 「そ、そういうんじゃなくて……」
真美子 「わかってる、わかってるって。あんたもお年頃だもんね。今まで奥手で通ってきた智恵理もとうとうこういうの興味持ち出したか」
智恵理 「ちょっと真美子……」
真美子 「なに赤くなってんのよ。図星だって言ってるようなもんよ?」
智恵理 「……」
真っ赤っかの智恵理を放っておいて、真美子はさらにページを繰った。
真美子 「おー、生徒が先生輪姦するのかー。楽しそうだなー」
智恵理 「なに言ってんのよ、もう!恋川君がこんな下品な本に影響されちゃったらどうするのよ。それでなくても成績下がり気味なのに……」
真美子 「なに見当はずれの心配してんだか。今時の学生、エロ本の一冊や二冊かわいいもんじゃない」
智恵理 「だからって……」
真美子 「早い子なんてとっくに経験済みだって。あんたの常識で今の子計ってたら、そのうち泡ふくよ?」
智恵理 「……でも、恋川君は、そんな……」
真美子 「あー。あの子かわいい顔して、智恵理のお気に入りだもんね」
智恵理 「そっ、そんなんじゃ……」
真美子 「どーかな。あの子だって成績下がってるの、智恵理のこと考えて勉強手に付かないとかそういう理由かもよ?」
智恵理 「まさか!」
真美子 「あ、赤くなった。あんたもまんざらじゃない?」
智恵理 「そ、そんなわけないでしょ!生徒と教師よ!」
真美子 「あーら。そんじゃ、私先に味見しちゃっていいの?ちょっとショタっぽくていい感じよね、恋川」
智恵理が立ち上がって真美子をにらみつけた。
智恵理 「やめてよっ!あの子はそんなんじゃないんだから!」
が、真美子は気にした様子もなくケタケタ笑うばかりだ。
真美子 「じょーだん真に受けなさんな」
ふぅ、と大きく息をついて座り直す智恵理。
智恵理 「まったく……真美子みたいのがどうして教師になれたんだか、理解に苦しむわ。日本の教育制度は間違ってるわね」
真美子 「あー、言うね智恵理。同じ教育大通った仲じゃないの」
智恵理 「私がとった講義では生徒誘惑する方法なんか習いませんでした」
真美子 「なによ、かわいい教え子たちに人間の真実を教えてあげようってだけじゃない。先生らしく、さ」
智恵理 「どうなってもしらないからね!」
真美子 「そんなヘマしないわよ。で?どーすんの」
智恵理 「どうって?」
突然の話題転換にとまどう智恵理だ。
真美子 「恋川の指導をどうするかって話でしょ?わざわざ電話で呼び出して、相談したいことっていうから何かと思えば」
智恵理 「話そらしたの真美子じゃない」
真美子 「はいはい。そんで?」
智恵理 「それがさ……どうしていいかわかんなくて」
真美子 「かわいくて食べちゃいそうだから?」
智恵理 「ちゃかさないでよ!」
真美子 「だって面白いんだもん、あんたの反応」
智恵理 「もう……」
ようやく真美子は本を閉じ、身を起こした。
真美子 「心配なら家庭訪問でもすれば?保護者がどう思ってるかとか、家ではどうなのかとかさ。わかればまた対策も立てられるよ」
智恵理は頬杖をつきながらうなずいた。
智恵理 「そうしようかなぁ……」
その肩口にあごを乗せ、真美子がささやく。
真美子 「そんで誘っちゃえばいいじゃん」
智恵理 「ちょ……」
真美子 「女教師知恵、か。名前見ればわかるじゃん、恋川、絶対あんたのこと想像してるよ」
智恵理 「……」
真美子 「いーじゃん、この本実践してあげれば?
最初はこの知恵って先生がお気に入りの男の子誘惑する話でしょ?で、それを不良グループに見つかって脅されて……って
不良グループだもんねー。いつの時代の話だかまったく。あははは」
また大笑いする。
智恵理 「真美子ぉ……」
真美子 「きっとかわいいよ?ちょっとシナ作ってせまってごらんて。どんな反応するかな
せ、先生っ!ぼ、僕こういうの初めてなんです……なんてなー、あははははは!」
智恵理 「…………」
激しく赤面してうつむく智恵理。
真美子 「ああ、しかし少年の青い性はあこがれの先生相手に押さえるすべもなく、獣と化した恋川は智恵理の胸にその手を……」
歌うように節を付けて弁じる真美子を、智恵理のつぶやきが遮った。
智恵理 「……やめてよ……」
声の調子が深刻だったせいか、真美子が表情を改める。
智恵理 「ほんと、そんなんじゃないんだから……」
真美子 「智恵理、あんた……」
智恵理は泣きそうな顔で言葉を続けた。
智恵理 「……弟みたいだなって。それは、かわいいなって思うけど……そういうんじゃ……」
真美子はため息をつき、ぽん、と智恵理の肩を叩いた。
真美子 「ごめん、からかいすぎた」
智恵理 「……」
真美子 「まだ吹っ切れてなかったの、裕太君のこと」
智恵理 「そうじゃ……ないけど」
真美子は真剣な表情でうなずく。
真美子 「……気持ちはわかるけどさ。病気だったんだもん、しかたないよ。それにもう、7年も経つんでしょ?」
智恵理 「うん……」
真美子 「いい加減引きずっても、あんたも辛いし、裕太君だって天国で辛いよ?」
智恵理 「……うん。そうだね……」
真美子 「まあ、あたしが口出すことじゃないけど……いいかげん整理つけないと」
智恵理 「うん……」
うなだれる智恵理の背中を優しく叩き、真美子は再びベッドへ身を投げ出した。
そのまましばらく二人とも無言。
しばらくして、ぽつり、と。
真美子が口を開いた。
真美子 「でもさ……」
智恵理 「うん?」
真美子は視線を合わせず、天井を見たまま、低い声で言った。
真美子 「恋川は、弟みたいって見られるの、不本意かもよ?……かえって傷つけても知らないからね」
智恵理 「え……?」
不思議そうに顔を上げた智恵理の視線に、しかし真美子はは応えず、背を向けて再び文庫本を開いた。


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