『拐〜カドワカシ〜』イントロダクション


学園裏庭

文 香: 「あ……先生……」

声を掛けた途端、白石は戸惑ったように俺を見つめている。

……白石は、見るからに高級そうな学生だ。
光り輝くような美貌の持ち主で、長いつややかな髪が自慢らしい。

髪を掻き上げながら、俺をじっと睨むように見つめている。
自信たっぷりな……高慢そうな顔だ。

それに比べて、蔵島はがりがりのやせっぽちで、眼鏡を掛けた陰気な学生だ。
おどおどとした視線は、救い主のはずの俺を避けるように逸らされた。
見た目だけだと、明らかに蔵島の方が何かやらかしたとしか思えない。

文 香: 「……何の御用でしょうか? 先生」
主人公: 「それはこっちの台詞だな。こんな所で、何をしているんだ?
しかも、蔵島を取り囲んで」

白石は、俺の言葉を聞いた途端、鋭い視線で蔵島をねめつける。
蔵島は、そんな白石の視線にただ怯えて顔を伏せている。
これでは確かに虐めてくれ、と言っているような物だろう……白石の気持ちも、わからないでもない。

主人公: 「お前ら、何を言い争っているんだ。俺に言ってみろ」
文 香: 「……先生には、関係のない事です。行きましょう、みなさん」

白石が声を掛けると、取り囲んでいた学生は蔵島から離れた。
みんな忌々しそうに蔵島を見ている。

文 香: 「いい加減、学習してちょうだい、蔵島さん。皆さんに迷惑を掛けたくなければね」

白石はそれだけ言うと、長い髪を靡かせて去っていってしまった。
取り巻きの学生達が、慌てて白石を追っていく。
一体、何だったんだ……

朋 子: 「……」

慌てて俺は、蔵島の方を見た。
蔵島は全くその場を動かず、俯いて唇を噛んでいる。

主人公: 「一体、何があったんだ?」
朋 子: 「……」

俺の問いかけにも、蔵島は小さく首を振るだけだ。
ただじっと体を硬くして黙っている。

……一体こいつは何だ? 何でこんなふうに黙っている?
それに助けられての礼もないのか?

主人公: 「そんなふうにしてちゃ、いつまで経っても白石達に虐められるぞ?
それでいいのか!?」

いらいらして、俺は怒鳴りつけるように蔵島を叱責した。
その途端、蔵島の肩がびくんと跳ねる。
目に怯えの色を浮かべ、上目遣いに俺をおどおどと見つめた。

朋 子: 「なんでも、ない……です」
主人公: 「何でもないことはないと言っているだろう?」
朋 子: 「なんでも、なんでも……なんでも、ない、ないです……」

何度も『何でもない』を繰り返し、ただブルブルと首を横に振る蔵島を見て、俺はますますイライラした。
蔵島は、何でこんな顔をするのか……

主人公: 「何故、隠し事をする? お前はそれでいいのか?
いつまでも虐められたいのか?」
朋 子: 「そ、そんなじゃ……ないです……」
主人公: 「そうか? 俺には、そんなふうにしか見えないぞ?
はっきり言えないのか?」

怯えたウサギのようにぶるぶる震えて、朋子は俺を見つめている。
その瞳が、俺の心の中に暗い炎を燃やさせた……

強者を前にして、ただ震えるしかなすすべのない、弱い生き物。
それが、今俺の目の前にある……
まるで俺に捧げられるように……!
ごくりと咽が鳴った。

朋 子: 「……あの……」

蔵島に声を掛けられ、ハッとする。
蔵島は、いぶかしむような表情を浮かべている。

ダメだ……俺は今、何を考えていた……?
そんな事を考えては……!

主人公: 「ま、まぁいい。とにかく何かあったら、また相談してきなさい」

俺の言葉に蔵島は小さく頷いたが、ちらりと俺の顔を覗き込むように見つめてきた。
その瞳が……俺の心の奥底に蠢いている暗い澱みを見透かしているようで、俺は慌ててその場を去った。


学園廊下

imageその日以来……俺と蔵島は、校内でよくすれ違うようになった。

いや、すれ違っているわけではない。
蔵島が俺を見張っている……それに気がついたのは、蔵島が廊下から俺を見ていた視線だった。

あの視線だ。
あの、探るような……俺の心の奥底を見透かすような……あの視線。

しかし、蔵島は、俺に見つかると怯えたように逃げていってしまう。
それが、どういう事なのかわからない。

ただ……もしかしたら、と思う。
もしかしたら蔵島は、本能的に俺の心の底にある暗い部分に気付いたのかも知れない……
そう思うと、やりきれない気分になるが……その反面、俺は逃げ出す蔵島の姿に、かつてない高揚を感じていた。

怯え逃げる蔵島の背中を押さえつけ、無理矢理に凌辱する……そんな想像に、暗い悦びを感じているのだ……


学園教室

image夕焼けが赤く校舎を染めていく。
見回りをしながら、俺は1つ1つ教室を覗いていた。

寮に帰るように学生達に告げながら、蔵島の事を考える。
……何にしても、あれ以来避けられている事には変わりない。
これは誤解をといておいた方がいいだろう……

そんな事を考えながら、一番奥の教室を覗くと……そこには、蔵島が立っていた。

主人公: 「蔵島……」

俺の声に、びくりと肩を振るわせて振り返る蔵島。
それを見て、俺は慌てて蔵島に近づいた。
このままだと、いつもの通りに逃げられてしまう。

朋 子: 「あ、あの……ど、どいて下さい。帰ります」
主人公: 「……いや、待て。話を聞いてくれ」
朋 子: 「話? 話って……なんですか?」
主人公: 「いや、だから……お前、この間から何か誤解しているだろう?」
朋 子: 「誤解……? 誤解って……」

怯えた瞳で俺を見上げながら、ただ震えている蔵島を見て、俺はますますイライラした。
何だって、こんな顔をするのか。
そして……どうして、こんなにも俺の気分を高揚させるのか……

主人公: 「蔵島!」

じりじりと後ずさる蔵島を逃げ出させまいと、肩を押さえる。

朋 子: 「きゃあ!! な、何をするんですか!!」

途端に、悲鳴のような声を上げられる。
身をよじる激しい反応に、慌てて蔵島の細い腕を掴んだ。
簡単に折れてしまいそうなほど、細い腕だ……この腕をねじ上げたら、蔵島はどんな顔をするだろうか。

主人公: 「………………」

手を離さず、黙り込んでしまった俺を、蔵島は不気味そうに見ている。

朋 子: 「せ……先生?」

いけない、そんな事を考えては……ほら見ろ、蔵島が怯えた顔をしている……
怯えて……怯えながらも、俺の心を見透かす、あの瞳で……俺を。

朋 子: 「先生……どうなさったんですか?」

怯えながらも、俺を冷ややかに見つめる……蔵島の瞳。
そんな瞳に、俺は……逆に、追いつめられてゆくような気がした。

追いつめられ……俺は……
自分の欲望に、抵抗出来なくなる……

蔵島の目が俺を……
見ている……




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