学園廊下
今日も蔵島は、俺に抱かれに来るだろう。
……その時の事を考えるだけで、背筋にゾクゾクとした感覚が走る。
放課後の廊下には、部活を終えて帰り支度をした学生達ぽつりぽつりと歩いていた。
もうじき、この校内は静かになり……そして、悦楽の時がやってくる。
突然かけられた声に、俺は振り返った。
……そこには、一人の学生が立っていた。
明るい笑顔を浮かべ、俺を見つめている。
主人公: |
「矢澤……」 |
瑞 恵: |
「あ……名前、覚えていてくださってたんですね」 |
いっそう、笑顔が愛らしくなった。
主人公: |
「……授業を持った学生の名前は、なるべく覚えるようにしているよ」 |
瑞 恵: |
「あは……先生も、大変ですね」 |
彼女の名は、矢澤瑞恵。
その名前を覚えるのは、簡単だった。
品行方正で成績も常に上位をキープしている、学園でも指折りの優等生。
職員の間で、話題に上る事も多い学生だ。
恵まれた容姿に、明るく裏表のない性格……
代議士の一人娘であるのにもかかわらず、それを鼻にかける事もない。
同性からも好かれるタイプで、自然と頼られる事も多いらしい。
かといって、取り巻きで自分の周りを固めたりするような事もなく、誰とでも分け隔て無く接しているようだ。
自分の取り巻きを引き連れて、派閥を作ったりするお嬢様が多いこの学園では、珍しいと言える。
主人公: |
「矢澤もずいぶん遅いな。まだ帰らないのか?」 |
朋 子: |
「役員会の仕事が、今終わったところなんです……」
「これで、やっと帰れます」 |
その結果、こうして学生会の役員としての苦労を背負う事なっているのだが……それを苦にした様子もない。
次の選挙では学生会長に推薦されて、その地位に就くのもほほ確実だろう。
何に、気をつけるんだ?
自分の口にしたセリフに、内心苦笑してしまった。
全寮制のこの学園で、帰り道に襲われるような事はあり得ない。
気をつけるとすれば……学園内にいる、俺のような変質者に捕まらないようするぐらいだ。
そんな俺の心の内を知らず、矢澤は素直に礼を述べる。
人の善意を欠片も疑っていないその瞳が、俺を見つめていた。
まばゆい笑顔を見せて、彼女は立ち去る。
離れてゆくその姿を、俺はホッとしたような、残念なような思いで見つめていた。
俺とは、相容れない世界の住人……
明るく、清らかな……光の中にいるかのような、眩しい少女。
俺の手は、決して届かない……そんな自嘲めいた思いが、沸々と湧いてくる。
俺は、頭を振って歩き出す。
蔵島との、暗い悦楽に向かって……
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