『拐〜カドワカシ〜』イントロダクション


……それから夜通しで車を走らせ、蔵島から指示された場所に向かう。


山荘前

蔵島から指示された場所……そこは、開発計画の途中で放棄された、山の中の別荘だった。

この辺りを、別荘地として売り出そうという計画だったらしいが……今時、こんな不便な場所にある別荘には、需要も無いのだろう。
麓の町からここまでの間、周囲に人気はまったく無かった。

管理人の見回りも、行われている形跡は無い……別荘はほとんど廃墟と化して、うち捨てられていた。

俺はその山荘に矢澤を運び込むと、そのまま蔵島の到着を待った。

やがて日も傾き、辺りに夕闇が迫ろうかという頃……居間のドアが、重い音を立てて開いた。


山荘居間

朋 子: 「……先生……処理は済んだわ」

やって来た蔵島は、幾分疲れているような顔をしていた。
しかし、すぐに表情を引き締めると、眠っている矢澤を見つめる。

朋 子: 「まだ、触れてはいないのね……先生?」
主人公: 「ああ、言われた通りにな……」

ここに運び込んでから、矢澤には睡眠薬を飲ませてある。
まだ薬が効いているのか、今は静かに眠っていた。

ここ最近の騒ぎのせいだろう……やつれたように見えるその表情が、痛々しい。
それが、俺の嗜虐心をそそる。
俺は蔵島が来るのを、待ちかねていた。

朋 子: 「そう……起こして」

冷酷な言葉に頷き、俺は矢澤の頬を何度かはたいた。
矢澤は、うめきながら、まぶたを震わせる。
ゆっくり、眼を見開くと、定まらない視線を空に漂わせている。

瑞 恵: 「……あ……私……」
主人公: 「お目覚めか?」

俺の声を聞いて、矢澤はハッと眼を見開くと、慌てて飛び起きた。

瑞 恵: 「せ、先生?……わ、私……公園で……あっ……!」

気を失う直前の事を思い出したのか、矢澤の表情がさっと硬くなる。
目の前にいる俺に対して向ける視線には、怯えたような色があった。

瑞 恵: 「こ、ここはどこ!? 一体、ここはどこなの? 帰して下さい!!」

自分が見知らぬ場所に連れ込まれたと知って、矢澤の怯えはますますひどくなる。
俺に向かって訴えかけてくる声は、叫び声に近かった。

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瑞 恵: 「助けて……帰して、お願いッ!!」
主人公: 「……ダメだ」
瑞 恵: 「先生……ッ」

冷たく首を振る俺に、矢澤は落ち着き無く辺りに視線をさまよわせる。
……まるで、逃げ場をさがすように。

瑞 恵: 「あっ! 蔵島さんっ!」

矢澤は、俺の後にいる蔵島に気づくと、よろめくような足取りで蔵島に近づいて、その腕にすがった。




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